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難治性寄生虫病に関する遺伝子診断法の開発
旭川医科大学
活動実績(平成22年度)

補助事業の達成状況
難治性寄生虫病に関する遺伝子診断法の開発
 申請者のグループが開発した人体寄生テニア属条虫3種類の遺伝子鑑別法、特に簡便なLAMP法を流行地の現場で実施できるよう細かな工夫を加え、流行地で実施可能であることも確認できた。

流行地での疫学研究に必要な免疫、遺伝子診断、検査法の開発
嚢虫を用いる診断用抗原精製法の確立
嚢虫を用いる簡便な診断用抗原精製法を確立し、ヒトならびに家畜における検査法の有用性を
確認した。
遺伝子組み換え技法による診断抗原の大量生産法の開発
遺伝子組み換え技法による大量生産法が確立できた。具体的には イ) 2種類ある診断抗原(Ag1V1およびAg2)の内、大腸菌に毒性を持っているため大量発現を困難にしていたAg2抗原の抗体エピトープが、そのNおよびC末端に存在することを明らかにした。さらに、 ロ) Ag1V1抗原をAg2抗原の中央部に挿入することにより、Ag2の立体構造を破壊し、その毒性を消失させることにより、組換え抗原の大量発現が可能になった。
テニア科条虫の遺伝子解析
エチオピアのハイエナから得られたテニア条虫のミトコンドリア遺伝子(cytochrome c oxidase subunit 1, cox1)の塩基配列を決定した結果、少なくとも4種類のテニア属条虫が含まれていることが明らかになった。また、中国、インドネシアならびにタイ由来の無鉤条虫とアジア条虫のミトコンドリア遺伝子と核遺伝子(elongation factor等の5遺伝子)の塩基配列を決定した。その結果に基づき、elongation factor遺伝子を標的とする、無鉤条虫とアジア条虫ならびに雑種個体を迅速に識別するPCR法を開発した。

流行地での疫学調査
バリでの調査 中国(四川省)、インドネシア(バリ、パプア)、タイ(カンチャナブリほか、ミャンマー国境沿いの少数民族居住地)で、上記(1)の検査法評価に必要な血清、糞便、寄生虫を入手した。すなわち、それぞれの国で流行地を特定した。特にタイ、中国では3種類が同所的に分布している村落が確認できた。血清については嚢虫症に特異的な抗体応答の有無を、糞便ならびに寄生虫についてはPCR法ならびにLAMP法により種特異的な遺伝子検出を検出した。
基本的には流行国の研究者が旭川医科大学で自分達が採取したサンプルを自分達が中心になって解析するシステムを踏襲した。新しい試みとして、現地でリアルタイムに患者の確認ができる簡便なLAMP法を導入し、特別な装置なしで実施可能なことを確認した。
 また、上記の3カ国すべてで有鉤条虫が確認できたことから、嚢虫症の流行に関する疫学調査を実施した。条虫症患者と嚢虫症患者の分布に関する地理情報学的解析が可能になった。
中国
 これまでの住民検診実績に基づき、問診、採血、採便、駆虫、さらに村人の家屋の位置情報と家族構成を正確に記録する調査を実施した(平成22年10月〜11月)。少数民族であり、英語から中国語、中国語からチベット語への通訳の協力が不可欠であった。血清検査した住民240人のうち10.4%(25人)が抗体陽性になり、嚢虫症の蔓延が確認された。また、20隻以上のテニア条虫が駆虫されたが、それらの材料を採取した当日中に現地近くの施設(保健所あるいはホテル)でリアルタイムで遺伝子解析が可能なことを確認した。
インドネシア
 幼児嚢虫症が発見されたバリ州北東部から有鉤条虫感染者が発見された(平成23年1月)。過去10年間バリ島全島での調査を実施してきたが、有鉤条虫感染者を確認できたのは今回が初めてであった。
タイ
タイでの調査  カンチャナブリよりもさらにミャンマーとの国境沿いのカレン族生活区域としてタク県で調査を実施(平成23年2月)、150人の検便から6人がテニア条虫に感染していることが顕微鏡観察から判明した。旭川での技術移転セミナーで、6人中5人が有鉤条虫感染、1人が無鉤条虫感染であったことが遺伝子解析により確認された。

各国の若手研究者に対する技術移転セミナーとサンプル解析、代表者会議
代表者会議  すべての参加国の研究者がそれぞれの国で海外持ち出しの許可を得たサンプル(血清、糞便、寄生虫)を旭川医大に持ちよった。各国の代表者が各国における疾病流行の現状と問題点、解決に向けた技術革新の必要性、旭川医科大学への期待、共同研究の意義について発表し、意見交換し、すべての国の代表者ならびに若手研究者が情報を共有した。
 代表者会議に引き続き、各国から持ち寄られた研究材料を用いて技術移転セミナーを実施し、血清、遺伝子解析を行った。毎週水曜日に前週の研究結果をPower Pointを用いて報告させる形を導入し、最後まで非常に熱心な研究が展開され、解決した問題と未解決の問題の仕分けがなされた。この代表者会議議事録ならびにセミナー成果を英文報告書としてまとめた(Ito A et al. Parasites & Vectors 2011, 4:114)。

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代表機関 : 旭川医科大学
研究代表者 : 伊藤 亮 ( Akira Ito )
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TEL 0166-65-2111
難治性寄生虫病に関する遺伝子診断法の開発