申請者のグループが開発した人体寄生テニア属条虫3種類の遺伝子鑑別法、特に簡便なLAMP法を流行地の現場で実施できるよう細かな工夫を加え、流行地で実施可能であることも確認できた。
中国(四川省)、インドネシア(バリ、パプア)、タイ(カンチャナブリほか、ミャンマー国境沿いの少数民族居住地)で、上記(1)の検査法評価に必要な血清、糞便、寄生虫を入手した。すなわち、それぞれの国で流行地を特定した。特にタイ、中国では3種類が同所的に分布している村落が確認できた。血清については嚢虫症に特異的な抗体応答の有無を、糞便ならびに寄生虫についてはPCR法ならびにLAMP法により種特異的な遺伝子検出を検出した。
基本的には流行国の研究者が旭川医科大学で自分達が採取したサンプルを自分達が中心になって解析するシステムを踏襲した。新しい試みとして、現地でリアルタイムに患者の確認ができる簡便なLAMP法を導入し、特別な装置なしで実施可能なことを確認した。
また、上記の3カ国すべてで有鉤条虫が確認できたことから、嚢虫症の流行に関する疫学調査を実施した。条虫症患者と嚢虫症患者の分布に関する地理情報学的解析が可能になった。
すべての参加国の研究者がそれぞれの国で海外持ち出しの許可を得たサンプル(血清、糞便、寄生虫)を旭川医大に持ちよった。各国の代表者が各国における疾病流行の現状と問題点、解決に向けた技術革新の必要性、旭川医科大学への期待、共同研究の意義について発表し、意見交換し、すべての国の代表者ならびに若手研究者が情報を共有した。
代表者会議に引き続き、各国から持ち寄られた研究材料を用いて技術移転セミナーを実施し、血清、遺伝子解析を行った。毎週水曜日に前週の研究結果をPower Pointを用いて報告させる形を導入し、最後まで非常に熱心な研究が展開され、解決した問題と未解決の問題の仕分けがなされた。この代表者会議議事録ならびにセミナー成果を英文報告書としてまとめた(Ito A et al. Parasites & Vectors 2011, 4:114)。